※「MC」2023年10月25日発行(第1222号)『THE BOOK 3』リリース時の特集記事を再掲載しています。
──『葬送のフリーレン』オープニングテーマを制作するにあたって、『葬送のフリーレン』原作者・山田鐘人監修の「勇者」原作小説『奏送』から曲を作り上げる過程について、教えてください。
Ayase「『奏送』という楽曲用の書き下ろし小説を原作としつつ、アニメのオープニングということなので、『葬送のフリーレン』自体もバックボーンとして据えて作っていきました。
今までのYOASOBIの楽曲は、歌詞で割としっかりと状況説明をしたり、登場人物のことを言葉で描いたりしてきた部分が多かったんですが、今回に関しては、音で小説の世界観を表現してみようというのはありました。
原作の小説が音楽にまつわるようなお話なので、そこに出てくる楽器や描かれている街並みの空気感や、そこに残されている勇者の思いというものを、音でしっかりと表現していったという感じです」
──YOASOBIという、小説を音楽曲にしてくれるという存在があるからこそ、私たちはこうして、新しい作品に触れられていて。この『奏送』も、おそらくYOASOBIが曲を作ってくれるということを意識されて書かれていると思いますが、この小説の印象はいかがでしたか?
Ayase「本当に、すごく寄り添ってくださっているなというのは感じましたし、僕はもともと『葬送のフリーレン』のファンなので。
本編では描かれてない、フリーレンがひとりで旅をしていたときのエピソードが描かれているのは、ファンとしてもうれしかったです。
まるでOVAを見させてもらっているような素敵な作品だったので」
ikura「私は、『葬送のフリーレン』の原作を読み、そして小説の方を読ませていただいたときに感じたのは、とにかく、言葉が美しいなと。
比喩表現なども頭の中で映像が浮かぶほど、本当に美しいものが想像できたんです。
音にまつわるお話でもあったので、音楽が鳴っている場所や楽器をイメージしながら読んでいて、実際にAyaseさんからデモをもらったときも、まさにそこで鳴っている音とかが形になって飛び込んできたような感覚になったので、驚きとワクワクを感じていました」
──今回、歌う上で意識されたことは?
ikura「今回一番大切にしていて、かつすごく難しかった点が、主人公のフリーレンが、感情をあまり表に出さないキャラクターというところでした。
フリーレンの心情を歌うには、すごく繊細に、絶妙な加減で感情を引き出していかなければいけない。
あまりに感情をあらわに出しすぎても、それはフリーレンらしくなくなってしまう。
フリーレンはどんな気持ちで、この言葉を口にするだろうと、声色なども細かく話し合って決めていきました。
この曲はフリーレンの気持ちが、勇者という人を通してどう動いたかというところを歌にしているので、そこの一番の真骨頂を、どう表現していくか、そこが難しかったですね」
──『勇者』っていうタイトルからして、内容と合わせて心をつかまれましたが、Ayaseさんはすぐにこのタイトルが浮かんだんですか?
Ayase「最初は『キャラバン』っていうタイトルが最有力で、次点で『ファンファーレ』だったんですが、作っていくうちに、なんか違うなと思って。
アレンジの作業とかに入り出したあたりから、物語と、この曲の核にあるのは勇者ヒンメルであること、異国情緒感のあるサウンドメイクや、ファンタジー感のあるこの楽曲の空気感、勇大さと美さというのも含めて、ぴったりなのは『勇者』だなと。
曲が完成するタイミングで付け直しました。
シンプルで、ドーンと直球なタイトルが好きなので、そういう意味でも漢字2文字になることはありますね」
──前作、『アイドル』が、話題性や記録も含めて、より多くの方に聴かれたことで、心境の変化やプレッシャーといったものもあったのでしょうか。
Ayase「うれしい反面、今度はこれを越えていかなきゃいけないんだなっていうのはやっぱり思いました。
それは『夜に駆ける』のときもあって、これを越える曲を作らなきゃいけない。
そこを『アイドル』という曲で、ひとつ越えられたかなっていう実感を得ることができた。
でもその代わりに、次はこれを越えなきゃいけないっていう、これはこれで大変そうだなというのも漠然と感じていて。
ただ、目の前の制作中の楽曲に関して、常にそんなことを考えながら作るのは無粋というか、邪念かなっていうのもあるんです。
曲が売れたかどうかっていうのは、一生懸命作った楽曲が、タイミングなどいろんな要素を踏まえた上での、あくまでもそのときの現象だなと思ってるので、プレッシャーはあるようでないし、ないようであるといった、そんな感じですね。
これからも、速度と熱量をどんどん上げていきながら、カッコイイことができたらいいなっていうのは変わっていないです」
──そしてアルバム『THE BOOK 3』がリリースされます。『THE BOOK』というタイトルだけに、1巻2巻と増えていって、3冊目になった。
Ayase「そういう風にしたくてやってきたことが、形になってきて嬉しいです。
間違いなく、リリースするごとに僕らの活動の幅や規模感っていうのがステップアップできていて。
1を出したときより、更にチャレンジすることの規模も可能性も、すごく広がったなっていう。
もっと、より真剣に、愛をもってYOASOBIと接するようになったなっていうのは、単純に活動歴につれて増えてるなって思いますね」
ikura「『THE BOOK』シリーズとしての3作目で、作品としての地盤も固まってきて、『小説を音楽にするユニット』として遊び心を持っていろんなことにチャレンジしてきたなって。
『THE BOOK』のタイミングで、ちょうど1年を振り返ることができるんです。
今年は特に、アリーナツアーなどライブもすごく活発にやってきたので、いろんな思い出が新曲それぞれに詰まっていて。
ちゃんと、ひたむきに走りながら、いいものを出してこれたなって」
──今お話に出た、アリーナツアーはいかがでしたか?
Ayase「アリーナツアーでの経験はかなり大きかったです。
以前は、YOASOBIというのは、若干、自分の人生とはちょっと切り離れされたところにあるというか、ビジネス的な側面、感覚が強くて。
自分の人生にこれしかないって思いすぎると、ちょっとキツイかな、みたいなところがあったんですけど、アリーナツアーを経て、どれだけの人が関わってくれてるかとかもリアルに感じることができて、ちゃんと自分の人生の一部として大事な要素として受け入れることができた……といったようなことを、ツアー最終日に、大勢のスタッフの前で伝えることができました」
ikura「本当にライブってやっぱり楽しいなって、ずっとそう思いながらやっていました。
すごく大変なこともあるんですけど、それ以上にあの時間で共有しているものの尊さは、自分にとって光になっていくなって。
例えば、その時期にすごい辛いこととかがあったとしても、ライブが生き甲斐となって、前進していくことができる。
YOASOBIのikuraであることが誇りに思えましたし、今後、まだ見ぬ世界に突き進んでいくことに対する覚悟が決められたツアーでもありました」
──最後に、お二人の、最近のマイブーム的なところも教えてください。
ikura「マイブームというか、サウナとか温泉とかで体を癒すのはしっかりやっていきたいなって思っていて。
冬は、雪を見ながら入れる温泉に行きたいですね。
サウナで整うと、いろんなことが流されるので、行き詰まったときなど、大自然の中の温泉に入るとか、サウナに行くなどして整おうと思ってます」
Ayase「僕は熱いの苦手だから、サウナには入れないし、水風呂も苦手なんだけど、最近は湯船に浸かることが増えました。
昔は入浴なんてめんどくさいって思っちゃうタイプだったのが、バスオイルとバスソルトのセットが最強っていうことに気づいて。
お風呂から出た後ずっとボカボカだし、肌もなんかツルツルする気がするしで気持ちがいい。
準備に時間をかけても2分ぐらいしか入らないんですけど、その2分間を、自分なりにゆったり楽しんでいます(笑)」